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8月は根管治療特集です。

「抜くしかない」と言われた歯を残すために――根管治療を正しく知る

「神経を取る治療をしたけれど、結局また痛くなった」

「何度も根の治療を繰り返している」

「この歯はもう抜くしかないと言われた」

歯科医院でこのような説明を受け、不安になった経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

根管治療は、一般に「神経を取る治療」「根の治療」と呼ばれています。しかし、実際には単に神経を取り除くだけの処置ではありません。

歯の内部にある根管という非常に細く複雑な空間から、感染や炎症の原因となる組織を適切に除去し、洗浄・消毒を行ったうえで、再び細菌が侵入しにくい状態に封鎖する――。

そして、その後に適切な修復・補綴処置を行い、歯を長く機能させていく。

これらを一連の流れとして考えることが、根管治療では重要です。

吉崎歯科医院では、8月を「歯を残すための根管治療月間」として、根管治療について情報発信を行いました。本記事では、その内容をもとに、根管治療の基本から、マイクロスコープや歯科用CT、歯周外科との連携まで、患者さんに知っていただきたいポイントを整理します。

根管治療とは、どのような治療?

歯の内部には「歯髄(しずい)」と呼ばれる組織があります。一般に「神経」と呼ばれている部分で、血管や神経などが含まれています。

虫歯が深く進行して歯髄に炎症や感染が生じた場合、歯髄を保存できないケースでは根管治療が検討されます。

根管治療では、感染した歯髄組織などを除去し、根管内部を清掃・洗浄・消毒します。その後、根管内を材料で封鎖し、細菌が再び侵入・増殖しにくい環境をつくります。

ただし、根管は非常に細く、形態にも大きな個人差があります。

例えば、同じ種類の歯であっても、根管の本数や曲がり方、分岐の仕方などは患者さんによって異なります。そのため、根管治療は「歯の中をきれいにする」という単純な作業ではなく、複雑な三次元構造を持つ根管系を診査・診断しながら処置する必要があります。

また、「神経を取った歯=死んだ歯」と表現されることがありますが、これは正確には少し違います。

根管治療によって歯髄を失った歯でも、歯そのものがすぐに機能を失うわけではありません。適切な根管治療と、その後の修復・補綴治療によって、口腔内で機能させていくことができます。

「痛くないから大丈夫」とは限りません

根管治療が必要となる歯では、強い痛みが出ることがあります。

例えば、

・何もしなくてもズキズキ痛む
・温かいものに強く反応する
・噛んだときに痛い
・歯ぐきが腫れている
・歯ぐきにニキビのような膨らみがある
・以前治療した歯が再び痛み始めた

といった症状です。

一方で、注意したいのが「痛みがなくなったから治った」とは限らないことです。

歯髄が壊死している場合などでは、歯髄由来の痛みがなくなることがあります。また、根の先に炎症が存在していても、必ずしも強い自覚症状が出るとは限りません。

そのため、診断では症状だけでなく、口腔内診査、歯髄・根尖周囲組織の検査、必要に応じた画像検査などを組み合わせて判断します。

根管治療が難しい理由――「見えない場所」を治療する

根管治療の難しさの一つは、治療対象が歯の内部にあることです。

通常の診療では歯の外側を見ることはできますが、根管の内部を肉眼で詳細に確認することは困難です。

さらに、根管は細く、曲がっていたり、途中で分岐していたりすることがあります。

そのため、根管治療では「どこに根管があるのか」「どのような形態をしているのか」「感染がどこまで及んでいるのか」などを診査したうえで、治療方針を立てることが重要です。

そこで活用されることがあるのが、歯科用マイクロスコープと歯科用CTです。

マイクロスコープは何のために使う?

歯科用マイクロスコープは、治療部位を拡大して観察するための顕微鏡です。

根管治療では、細かな根管の入口を探したり、治療中の歯の内部を拡大して確認したりする際に役立ちます。

ただし、マイクロスコープを使用すれば「すべてが見える」わけではありません。

あくまで術野を拡大して観察しやすくするための機器であり、歯の内部構造そのものを透視できる装置ではありません。

そのため、マイクロスコープの価値は機器そのものだけではなく、拡大視野をどのように診断や治療に活用するかという術者の知識・技術と合わせて考える必要があります。

米国歯内療法学会(AAE)も、歯内療法におけるマイクロスコープなどの拡大視野の活用について、臨床上の指針を公開しています。

歯科用CTで何がわかる?

一般的な歯科用レントゲンは、二次元の画像として歯や周囲の骨の状態を確認します。

一方、歯科用CT(CBCT)は、顎骨や歯の構造を三次元的に評価することができます。

根管治療においては、通常の二次元画像だけでは把握しにくい根管の形態や、根の先の病変、歯根と周囲の解剖学的構造との位置関係などを評価する際に役立つ場合があります。

ただし、CTはすべての根管治療で必ず撮影するものではありません。

放射線被ばくを伴う検査であるため、必要性を考慮し、診断や治療方針の決定に有用と判断された場合に適切に使用することが重要です。

つまり、「CTがある=必ず撮影する」のではなく、「必要な情報を得るために適切に使う」という考え方が大切です。

ラバーダム防湿も重要な意味を持ちます

根管治療では、治療する歯を唾液などから隔離する「ラバーダム防湿」が重要な役割を果たします。

根管治療の対象となる根管内部は、できるだけ細菌による汚染を避けながら処置する必要があります。

ラバーダムは、治療対象の歯を口腔内から隔離することで、唾液などによる汚染を防ぐことに加え、使用する薬剤から口腔内の組織を保護したり、器具や材料の誤嚥・誤飲を防いだりする目的でも用いられます。

AAEの治療基準でも、根管治療におけるラバーダムの使用は重要な感染対策・安全対策として位置づけられています。

「抜くしかない」と言われた歯でも、まず診断を

「この歯は抜くしかありません」

そう言われた場合でも、すべてのケースで歯を残せるという意味ではありません。

しかし、抜歯が必要かどうかを判断するには、歯の状態を総合的に評価する必要があります。

例えば、

・残っている歯質の量
・虫歯や破折の位置
・歯根の状態
・根の先の炎症
・歯周組織の状態
・骨の状態
・噛み合わせ
・修復・補綴が可能かどうか

など、さまざまな要素を考慮します。

その中でも、根管治療後に歯を長期的に機能させるうえで重要になるのが「フェルール」です。

フェルールとは、簡単にいうと、最終的な被せ物の周囲に残された健全な歯質によって形成される構造を指します。

十分な歯質を確保できるかどうかは、修復物の安定性や歯の破折リスクなどを考えるうえで重要な要素になります。

根管治療だけでは歯を残せないこともある

歯を残すためには、根管だけを治療すればよいとは限りません。

例えば、虫歯が歯ぐきより深い位置まで進行している場合や、歯質が十分に残っていない場合には、歯周外科的な処置を組み合わせることがあります。

その一つが「クラウンレングスニング(歯冠長延長術)」です。

歯ぐきや周囲の骨を適切に処置することで、歯ぐきの中に隠れている歯質を治療可能な状態にすることを目的とします。

これによって、被せ物を装着するために必要な歯質を確保できる場合があります。

ただし、すべての歯に適応できるわけではありません。

歯の位置、歯根の長さ、骨の状態、審美性、噛み合わせなどを含めて、総合的に判断する必要があります。

つまり、「根管治療か抜歯か」という二択ではなく、根管治療、歯周治療、補綴治療などを組み合わせて、その歯に残された治療の可能性を検討することがあります。

歯を残すために必要なのは「チーム」で考えること

一つの歯を長期的に維持するには、歯内療法だけでなく、歯周病、補綴、咬合など複数の視点が必要になることがあります。

吉崎歯科医院では、「小さな大学病院」という考え方を掲げ、それぞれの専門分野を持つ歯科医師が連携しながら診療する体制を目指しています。

根管治療が必要であれば歯内療法の視点から診断し、必要に応じて歯周外科や補綴治療についても検討する。

これは「専門医がいるから必ず歯を残せる」という意味ではありません。

むしろ重要なのは、一人の患者さんの歯を「一つの治療だけ」で判断せず、複数の視点から残された選択肢を検討することです。

根管治療を繰り返している方や、他院で「抜歯が必要」と説明された方でも、セカンドオピニオンとして現在の状態を評価してもらうことは、一つの選択肢になります。

根管治療は「治療が終わったら終了」ではありません

根管治療が完了した後も、その歯を長く使っていくためには注意が必要です。

特に重要なのが、適切な修復・補綴処置です。

根管治療後の歯は、歯髄を失っているため、虫歯などの問題を自覚症状だけで早期に発見しにくい場合があります。

また、残存歯質が少ない歯では、歯冠部の破折や歯根破折などにも注意が必要です。

仮歯や暫間的な封鎖の状態を長期間放置せず、治療計画に沿って最終的な修復・補綴を行うことが大切です。

さらに、定期的な診察によって、症状の有無だけでなく、必要に応じて画像検査などを行い、治療後の状態を確認していきます。

「歯を残す」とは、根の治療だけをすることではない

根管治療について調べると、

「マイクロスコープ」
「CT」
「ラバーダム」
「専門医」

といった言葉を目にすることがあるでしょう。

これらは、根管治療を行ううえで活用される重要な要素です。

しかし、本当に大切なのは、設備や肩書きだけではありません。

必要な診査を行い、現在の歯の状態を正確に把握し、その歯を残すことのメリット・デメリット、治療に伴うリスク、代替となる治療方法まで含めて検討すること。

そして、患者さん自身が治療内容を理解したうえで、納得できる選択をすることです。

根管治療は、すべての歯を残せる魔法のような治療ではありません。

歯の破折や歯周組織の状態、残存歯質、感染の程度などによっては、抜歯が適切な選択となる場合もあります。

だからこそ、「残せるか、残せないか」を最初から決めつけるのではなく、まず現在の状態を正しく診断し、可能な治療選択肢を整理することが重要です。

まとめ――自分の歯を残すために、まず知ることから

根管治療は、単に「神経を取る治療」ではありません。

歯の内部に存在する感染や炎症に対応し、その後の修復・補綴まで含めて、歯を口腔内で機能させていくための治療です。

そして、根管の複雑な形態を考えると、診査・診断、感染対策、治療技術、治療後の修復まで、それぞれの段階が重要になります。

マイクロスコープや歯科用CTは、その診断・治療を支えるための手段の一つです。

また、歯を残すためには、根管治療だけではなく、歯周治療や補綴治療などを組み合わせる必要がある場合もあります。

「抜くしかないと言われた」
「根管治療を何度も繰り返している」
「できるだけ自分の歯を残したい」

そのような場合には、まず現在の歯の状態を詳しく診査し、どのような治療選択肢があるのかを確認してみてはいかがでしょうか。

吉崎歯科医院では、患者さん一人ひとりの状態を確認したうえで、治療の必要性や選択肢、メリット・デメリットなどを説明し、納得して治療を選択していただくことを大切にしています。

※本記事は根管治療に関する一般的な情報を提供することを目的としています。治療の適応や方法、予後は歯の状態や全身状態などによって異なります。実際の治療については、診察・検査を受けたうえで担当歯科医師とご相談ください。

執筆者
吉崎歯科医院 院長
吉嵜太朗 歯学博士・補綴専門医

監修
倉本将司 歯内療法専門医・歯学博士

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